第1回 無修正♡動画俱楽部♡を振り返る

記念すべき『第1回栃木無修正動画俱楽部』を開催しました。

参加者が臨床で得られた患者さんの診察所見を持ち寄り、身体診察の技術を高め、明日の臨床に役立てようという企画。

教科書で述べられていることが実際の臨床になるとよく分からないこと、まったくされていないことが意外と多く、身体診察を学ぶ為には生の所見が一番です。

また、この勉強会は珍しい診察所見を見せ合って自慢し合うのではなく、参加者全員の明日の臨床が変わるような企画として始めました。

ですので、復習は必須です。このページでは話題となった動画から、臨床に役立てるよう勉強できるポイントをまとめています。

次回第2回は3月を予定しています。


1.奇脈のとり方の工夫~SpO2モニターを観察せよ~

60歳代、原因不明の心嚢液貯留。

ここで光る診察となったのは、奇脈の診察。奇脈とは吸気と呼気で血圧の差がある(吸気により静脈還流の増加により、右心系の容量は増えるものの、逆に左心系の容量は低下し、結果的に血圧が低下する)。と言うことですが、臨床現場でキッチリとれている医師はほとんどいないのではないでしょうか?

スタンフォード大学の教育動画に一般的な聴診器を使った気脈の測定法動画があります。

奇脈の原因は今回のような心嚢液貯留以外に気管支喘息重積発作や肺塞栓などでみられる所見ですが、いずれも呼吸困難を伴っていることが多く聴取は簡単ではありません。

視覚的にどうにかならないか、が今回のポイントで、SpO2モニターを用いた動画を披露していただきました。


マンシェットを巻いた腕の指先にSpO2モニターを装着し、血圧計の圧を圧波形の出ない圧まで上げ、少しずつ(かなりゆっくり!!)圧を下げて波形を確認すると、最初に波形が出たり出なかったりのフェーズが出現します。ここが、呼気のみに血流波形がみられるポイントで、さらに下げていくと、通常のような一定の波形が出るようになります。個々が吸気も呼気も波形が出現するポイントです。この差を奇脈とする。

という方法です。

文献検索すると同様に、動脈圧波形で検討したという論文も出てきます。

 

Chadwick V, Continuous non-invasive assessment of pulsus paradoxus.Lancet. 1992 Feb 22;339(8791):495-6.

2.IV音は心尖拍動の視診で見破れ!

80歳高血圧(性心筋症)のある患者のIV音の診察。動画俱楽部ですので、聴診ではなく視診で見破るのがポイント!

ちょうど1年前にNEJMでも動画が紹介されていました。

心尖拍動の拍動が2相性に動くのがポイントです。

フィジクラスティックを用いるとより鮮明になります!

Galloping Heart NEJM

3.るいそう歩行障害~栄養障害によるウェルニッケ脳症~

50歳代の患者極度の偏食、アルコール多飲、患者の歩行障害。ボディーイメージの障害により、摂取不足が背景にありました。動画では、wide baseの特徴的な失調歩行が診られました。

ウェルニッケ脳症のまとめです。この動画で提示されている歩行障害が特徴的で、今回の提示症例と類似していました。

るいそうだけで歩けないと短絡的に考えるのではなく、病歴からビタミンB1障害が疑われる患者を診る場合には失調に注意して診察するといいでしょう。


4.頚髄損傷~電動ベッドやっぱり最高!~

90歳代の転倒を繰り返す患者、上肢はなんとか動くもののそれ以下の運動麻痺が強く、寝返りも自分では困難な状態。臥位から座位にするリハビリを工夫したものの、やっぱり電動ベッドが一番楽だった。。。という動画提示でした。この時代に生まれてよかった~!

脊髄損傷を起こした患者の正しい体位と正しい体位変換をもう一度勉強してもいいかもしれません。


5.不明熱をKussumaul徴候で見破ったぜ!

70歳代、不明熱で紹介となった患者。来院するとなんと座位で内頚静脈の激しい拍動を観察、そして拍動は吸気に激しく、高くなる。最終的に1例目に似た心嚢液貯留が原因だったと判明。

頚静脈拍動は吸気に静脈還流が増大し、正常では低下(虚脱)します。しかし、心タンポナーデなど、右心系から左心系へいけない状態になると、逆に吸気に怒張する。ということが起こります。通常は45度の体位で確認しますが、悪化すると座位で確認も可能です。


6.脊髄損傷の腱反射の所見、周囲まで誘発される

頚椎損傷の患者で、腕橈骨筋反射(手首を叩く)を行うと、上腕2頭筋が伸展するという動画。ここからがポイント!腱反射は急速な動きを観察する所見なので、スローモーションで撮影すると観察しやすい!(iphoneの写真アプリで撮影可能)

そもそも、上腕二頭筋反射も腕橈骨筋反射もC5-6の神経が神経叢を作ってみられる所見で、反射の亢進が診られる場合には、出現してもおかしくないですね。

いくつか教科書、動画をあさってみましたが、記載を見つけることはできませんでした。

7.めまい、嘔吐の患者は斜視と垂直眼振に気をつけよう!

80代めまい、嘔吐で来院した患者。めまいが激しかったのですが、正面視で左内斜視と全注視で垂直眼振を認めました。最終診断は椎骨脳底動脈解離でした。

垂直眼振を診た場合、脳幹か小脳の病変を強く疑う所見。脳疾患以外の原因にはウェルニッケ脳症、アルコール性、リチウム中毒、低マグネシウム血症、脳炎、梅毒などがあります。


8.不随意運動のケース3症例

1)80歳代インフルエンザ感染、タミフル内服後の全身がピクツクような不随意運動。

  触ると全身がびくっと動く

2)80歳代 構音障害・左麻痺・不随意運動

3)50歳代 統合失調症患者、そわそわ、足バタバタ⇒☆最近薬増えませんでしたか?という問診が光り、オランザピン増量を発見⇒アキネトンで速効消失。お見事!

の3症例が今回のケースで出ました。不随意運動を表現する

次回以降も不随意運動は一つのテーマになりそうなので、振り返りとして、不随意運動についてまとめておきます。不随意運動の教科書も多々あるのですが、会でも話題となった不随意運動の教科書、『ふるえ(柴崎浩ら著、医学書院、2011)』が私の本棚にも立っていたので、参考にまとめてみます。この本に付属するDVDは不随意運動のほぼすべての実際の動画が入っています。序文にはこのようなことが書かれています。

「国際的にその道の専門と考えられる神経内科医が集まって、ある不随意運動を観察した場合に、それぞれ違った意見が出ることは驚くほどである。そのような意味で、不随意運動はその現象を正確に記載することが肝要であって、第一印象に基づいて診断することは実際的ではない。」

⇒すなわち、分類を確定するのは難しい症例は専門家でも同じで、エライ先生がこういうからこう、とならずに謙虚に観察し、表現、すなわち動画に撮って吟味することが大事ということでしょう。

柴崎先生がまとめられた不随意運動の特徴の分類です。診断の手助けになりそうです。

1)振戦

安静時、姿勢時、動作時に分けられる。

原因はそれぞれ、

安静時:パーキンソン病

姿勢時:本態性振戦、生理的、末梢神経障害、代謝性疾患、甲状腺機能亢進、低血糖、肝性脳症など

動作時:小脳性(アルコール、薬剤)、脳炎、多発性硬化症など

 


2)ミオクローヌス

一言で言うと、「突発性で持続の短い不規則な不随意筋収縮」ということになりますが、ミオクローヌスは①皮質性②脳幹性③脊髄性④その他に分けられます。

①皮質性

四肢遠位部にみられやすく、刺激(感覚、音、光など)や随意運動により誘発される。

今回の一番目にでた症例はこれかな?

②脳幹性

全身性の筋収縮 が四肢近位筋や体幹筋, 屈筋群優位にみられる。

③脊髄性

一肢あるいは両下肢などに律動性に出現する。睡眠中のびっくっとする発作はこれ。

④その他

代謝性脳症(肝性脳症、尿毒症など)で認める羽ばたき振戦はnegative myocronusとして知られる。


3)ジストニー

緩徐で、持続的な筋収縮がみられる不随意運動。

原因は様々で、脳症,脳血管障害,薬剤性または、遺伝性。


4)アテトーゼ

四肢遠位にみられる、持続の長いゆっくりとしたねじるような運動。動きは不規則で、まさに奇妙な動き。

脳性麻痺や低酸素脳症などでみられる。

 


5)ジスキネジー

不規則で多様なゆっくりとした動き。


6)舞踏運動

四肢遠位優位にみられる踊っているような不随意運動。あたかも随意運動であるかのような滑らかな運動。


7)バリズム

上肢または下肢を近位部から投げ出すような 大きく激しい運動。多くの場合、片側でhemiballismと呼ばれる。原因血管障害がほとんどで、対側の視床下核または視床下核―淡蒼球路の障害でみられる。


*アカシジア

落ち着きのない、じっとしていられない動作。原因のほとんどは薬剤。ドーパミンD2受容体拮抗作用を持っている抗精神病薬による。リスペリドン、ペロスピロン(ルーラン)、クエチアピン(セロクエル)、オランザピン(ジプレキサ)などが有名だが、プリオンペランやスルピリドなどの副作用として出現することがあるので注意。


9.ビクンッ、ビクンッは動脈ではなく頚静脈~PSVTによるCannonA~

70歳代、動悸を主訴に来院した患者、頚部がビクンビクンを拍動を認め、治療後に消失までの動画でした。

CannonA波は三尖弁が閉じている時に心房が収縮することによって、右室へいけなかった圧が頚静脈へ伝わることによります。

①規則的なCannonA

発作性上室性頻脈

②間欠的なCannonA

房室解離

でみられる所見です。

治療に関してですが、会で挙がったバルサルバ法と修正バルサルバ法について追記しておきます。2015年のランセットの論文で取り上げられている、修正バルサルバ法は半坐位でいきんだ後に仰臥位⇒下肢挙上を行う方法で、この論文では対象433名を通常のバルサルバ群と修正バルサルバ群の二つに分けてわけて洞調律への復帰率をみるとそれぞれ、17%と43%で優位に修正バルサルバ群が洞調律へ復帰しています。

薬剤投与の前にトライしてもいいかもしれません。

 


10.TSSによる全身の紅潮は一度みたら忘れられない!

タンポン使用による黄色ブドウ球菌感染によるTSSは有名ですが、今回は急性副鼻腔炎後のTSSでした、参加者の中には乳腺炎後のTSSを経験した方もいらっしゃいました。謎のショック+全身が真っ赤という特徴のある所見ですが、現場感覚で言うと、全身があわ~く真っ赤と言われても、もともと色黒系の人とか、熱をもってほてっている感じの人とか異常に気がつくのは簡単ではありません。写真での判断は困難で、動画がポイントになります。軽く患者の皮膚をタッチすると指の跡が残るというのがポイント。患者へのタッチが命を救う!ショック患者の対応をする場合にはモニターばっかり見るのではなく、積極的に患者に手をあてよう!

*会で出ていた、『white island in the red sea』はデング熱に特徴的な所見のようです。

ぎゅうぎゅうの会場に熱い議論がなされ、気がつけば23時になっており、大変盛り上がりました。